九代目言聞録

18.ふとんも豆腐も木綿でしょう! ~店名もご主人の名前も知らないうまい豆腐屋さん~

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ひときわ目立つ神保町の豆腐屋さん

最近、某有名通販会社の本社が神保町にあるので頻繁に行くようになった。「神保町」は以前コラムで書いたが僕が大好きな町の一つである。
http://otafukuwata.com/wp/?p=420
学生時代はプロレスショップや後楽園ホールにも良く行ったし、仲良しの同級生も近くに住んでいた。そして通っていた予備校もこの場所にあり、多くの友人が出来て(予備校で友達出来るというのも微妙だが)今でも連絡しあっている。そしておいしい店が沢山ありたまに仕事で近くを通るとき、ここに立ち寄ってランチを食べて気分は「学生時代」に帰っている。
その大好きな神保町にある通販会社の隣に、かなり、かなり古い(失礼!)建物の豆腐屋さんがある。このあたりは近代ビルが大きく建ち、オフィスビルや日大王国と言われるぐらい日大校舎がそびえ建っている。そんな中に2階建ての昭和レトロな建物がぽつんとあるので否応なしに目立っているのだが、先日、通販担当者との打ち合わせ時間よりも早く着いたのでその豆腐屋さんに目をやると、入り口に「お・い・し・い 豆乳」という何とも微妙な手書きの張り紙に目がいった。根拠はないがなぜかこの張り紙が昼食前で少し空腹だった僕の食欲をそそり、ついに中に入った。

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うまい!

するといかにも人が良さそうな40代前半の男性が長靴を履いてやってきた。
「豆乳をください」と僕が言うと「出来たて作ってあげるよ」と返事してくれた。
すぐ目の前の冷蔵庫に何個か入っていたが出来たての豆乳を入れてくれた。店内でそのまま飲んでいいということだったのでフタを空けて飲んでみた・・・がっ!その一口飲んだ瞬間、「えっ!?ソフトクリーム」と思うぐらい舌に冷たくて少し甘い感じのすぐその後あの新鮮な豆腐の味に感激してしまった。えっ!こんなに豆乳っておいしかったっけ?こんな味覚ははじめてである。コンビニ慣れとは恐ろしいものである。
僕はその豆乳を飲んで一気にテンションがあがり、いつもの悪癖「おしゃべり原田」が始まってしまった。「ここのお店は長いんですか?」「いやそうでもない70年ぐらいだよ」「いやいやそれって長いでしょう(笑)凄いなあ」「もっと古い店はこのあたりあるよ」「それでも70年もこの場所で続けてるって凄いことですよ」「でも僕の代でつぶれるよ」「そんなことないでしょう」「いや誰も豆腐屋なんてやりたがらないよ」「いやそんな・・・」その先に結婚や子供の事を聞こうとしたがわずか5分前に会った人に聞く質問じゃないだろうと話を変えた。このあたりは今じゃ考えられないぐらい商店街が多かったという。確かに江戸時代では商いの中心地、日本橋を中心にその周辺は宿屋やおいしい蕎麦屋やウナギ屋、などの食堂や商店が多かったと書物に書いてある。その流れでいけば江戸城(皇居)や日本橋に近い神保町も当然その流れがあるだろう。
僕は調子に乗って2杯目を頼んだ。その方は「おかわりですか・・・めずらしいなあ」と笑いながら入れてくれた。何でもビジネスマンなどが多く買いに来るらしいがおかわりする人はいないそうである・・(恥)。そして僕はついに豆腐を我が家のおみやげとして買ってしまった。持ち帰り時間を言われたが一旦会社の冷蔵庫に入れると話したので安心したようだ。おぼろと普通の豆腐。自分で笑ってしまったが「絹か木綿?」と言われて自然に「木綿」って言ってしまった。本気で一人でクスッと笑ってしまった。でもあの少しザラザラしている木綿豆腐のほうが「食べている」っていう気がするのだ。絹はちゅるちゅるっと口に入りあっという間に喉を通り越していく気がする。僕にとっては程よい重さがいい木綿ふとんと同じで良い感覚なのだ。
おっと!あと3分で約束の時間だ。そのまま豆腐を持っていくわけにいかないので急いで車に豆腐を置いて商談先へ行った。そこの担当者に余談でこの話しをしたら「みんなあそこで豆乳飲んだりしていますよ」と話した。おお!やっぱりねえ!「体にいいし肌もつるつるになるし。しかもあの店の感じもホッとするでしょ」なるほどねえ。「じゃこのあたりの社会人はスタバより豆腐屋ですか!」と話したら大声で笑いながら頷いていた。
自宅に持って帰ったおぼろ豆腐や木綿豆腐はやっぱりおいしかった。食いしん坊の僕なのにめずらしくその日は白い炊きたてのごはんを食べずに豆腐だけで済ませてしまった。そのぐらい豆腐が凄かった。息子もパクパク食べていた。ああコラムで味を伝えられないのが残念だ。
僕はそれから商談の時や通りすがりのときもそこで豆乳を飲んでいる。さすがにこれだけ通えば向こうのご主人も僕の顔を覚えている。何歳なんだろう。何代目なんだろう。継ごうと思った動機はなんだろう。本当は店を続けていきたいはずなんだよなあ。だって3人ぐらい従業員だっているし結構慌しく豆腐作っている姿はとても店を終わらせようと思う姿じゃない。でもいつも図々しく話し掛ける僕がめずらしくそんな質問が出来ないでいる。もう10回以上は来ているしそこそこ世間話もしている。何でだろう・・・
それは!あのご主人に僕が負けているんだよ。僕はあのご主人に仕事の姿勢が負けていると心の中で認めているんだと思う。古い店だがかっこつけずに昔ながらのままで淡々と豆腐を作っている。ご主人も派手な人じゃないし大人しそうな人。でもあのご主人の姿がさらに豆腐をおいしくさせているんだろう。
僕はどうだい?色々な企業とコラボしたり、新しい商品や事業をはじめているけどおたふくわたの原点である「すばらしい綿ふとん」を作り続けていこうと気合を入れているか。 
豆腐屋さんのご主人のように一極集中して作っているか・・・ご主人と話すたびに僕は自分の今の姿を気づくことが出来た。ここまで確かに走り続けて復活時には予想もしなかったぐらいおたふくわたは成長しているけれど少し止まって自分の足元を見ることにした。あのご主人は僕のそういう心境を何も気がつかないで今日も僕に豆乳を作ってくれるのだろうが僕は出会えたことが嬉しい。そう、もう一度「木綿」を考える機会をくれたから・・・。その件は次回に・・・
次回は「えっ?再びおたふくわた復活プロジェクト?」について書きます。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2007年8月に執筆されたものです

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