九代目言聞録

25.妄想議員!~「立候補してくれないか?」 バカをからかわないでくださいよ~・・・~

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眉唾の政治家立候補話。
それは数年間のこと。僕はある選挙がはじまる半年ぐらい前にある有名な人物A氏に呼ばれた。最初の出会いは仕事でお世話になっているB氏から、とあるパーティーにご招待頂きその時に来賓のA氏を紹介いただいた。A氏との名刺交換の際に「おたふくわた」ブランドを懐かしがってくださりこちらから説明するまでもなくホーロー看板や綿ふとんを手伝わされたという思い出話を熱い口調で話してくださった。確かにA氏の仕事柄、私のような業種の人間とお会いするのはめずらしいのだろう、秘書に促されるまで長い時間私の前に立って話されていた。しかしやはりプロ、相当の聞き上手の方だ。
それがきっかけで厚顔無恥の僕はA氏のオフィスに良く行くようになった。というのも私が良く訪問する大事な取引先のルートの途中にA氏のオフィスは位置しており会社を早めに出たときは多忙極まりないA氏の不在を承知でアポなし訪問することが度々あるのだが、極まれに、オフィスにいらっしゃることもありその時でも嫌な顔一つ見せず私を応接室に招き入れ忙中でも少しだけ世間話をしてくださる。
「俺はあんたみたいな情熱のある若造が好きなんだよ。これからも頼むぞ」小柄でどちらかというと痩せ型のA氏だが表情や体の底から出ているような声はさすがと思わせる雰囲気を持っている。これがオーラなのだろう。
そのA氏がある時、僕を呼び出した。ふとんの環境問題や小売店の閉店が年々増加していること、職人の高齢化、後継者問題についても色々聞いてきた。いつもより突っ込んだ質問をしてくるなあと内心思いながらも僕は質問に対し一つ一つ熱くそして真剣に答えていた。A氏は一通り私の話をうんうんと頷いて聞いたあと顔を上げて「そういえば君は誰々と親戚だよね」「福岡の○△先生はご存知なんだろ?」とも聞いてきた。きっとB氏から聞いたのだろう。そしていきなり「どうだい?選挙に出ないか」と言い出したのだ。
「えっ?議員ですか?立候補するということですか?」「そうだよ。10ヶ月後に選挙がある。私が応援している○○党のベテラン△△先生の体調が相当悪くどうやら次回の選挙は辞退して引退するらしいのだが、若手、期待の新人をドカンと立たせたいという空気がある。当選の可能性だけど、まあ票については色々考えているが、バイタリティと皆に伝える力があれば何とかなる。どうだい?」僕はこれってドラマの撮影でもしているんじゃないかと錯覚してしまった。ただ石像のように聞いていた。「数日考えなさい。答えは電話でいい」そう言ってA氏は席を立った。

いやいや有り得ない。バカをからかうのはいけない。これは完全に茶番だと思った。A氏の思いつきだろうし他に沢山声をかけているはずだ。しかし声をかけた全員が万が一立候補すると言い出したらどうなのだろう。「いや~すまんね、ある事情で他の方を推されてねえ」と体よく言うのだろうか。大体、僕の長所も根本も知らないだろうし当選するはずがない。そうだよ!落選したら僕はどうするの?A氏は僕のような単純人間をロボットのように操る腹黒さも持っているのではないかと考えてもいた。息子でもない僕の何を見てそう言ったのか不思議で仕方なかった。これは非常に眉唾の話だと思いながら会社に戻った。

僕の利己的政策
帰宅後にこの話をしたら案の定カミさんからはキツイ一発を浴びせられた。
「はああ??選挙?まさか迷っているわけないわよね~?大体、あなたがこの数年で政治家になれるぐらい「おたふくわた」で実績を残してきたかしら?経済に影響与えるぐらいの数字を売り上げたかしら?マスコミに度々登場したぐらいで有権者はあなたに一票入れるのかしらね?たとえ太いパイプで当選しても噂話やパッシング、怪文書ですぐ倒れこむあなたのような性格じゃ政治家になってもすぐダメになるわよ」
凄いなあ。マイク・タイソン級のパンチの連打で僕は豪快にぶっ倒れた。そこまで言うかである。でもなぜかこの時、この女性と結婚して本当に良かったと思ってしまった(笑)まあ気持ちいいKO負けである。「A氏もあなたに思いつきで言ったのでしょうけどね」と笑いながら台所へ戻った。実績かあ・・・そうだよ僕はおたふく顔を広めるのが使命。やっぱりおたふくわたを愛していることを確信した。
翌朝、僕はA氏にお断りの電話をした。しかしA氏はそれが分かっていたのか、いや、やはり複数の人間にこの話を持ちかけているのだろうか、余裕たっぷりの口調で「木綿ふとんを徹底して広めたい?。そうか。凡事徹底はいい事だ。数年後にまた話すかね」と言って電話を切った。僕は凡事徹底という素敵な表現をこのときはじめて知った。
大体、こんな話でうまくいくはずがないし僕はおたふくわたをもっと広めていくことが
宿命なのだ。政治は他の方に頑張ってやっていただくしかない。ちなみにその後の選挙で某有名企業から立候補した新人がライバル相手に辛勝だったが当選していた。僕だったら当選できないだろうしやはりこの人が最初から決まっていたのだろうと思った。
僕の祖父は確か政治家志望だったと聞いた。大学は法学部を出てその後は汽船会社に入社、その時も政治家への志を持っていたといわれている。それが縁あって婿養子となりおたふくわたを継いだ。祖父・・・原田平五郎氏である。だが祖父は戦後のおたふくわたを、そして福岡を立ち直させるることに命をささげ、名を残した。でも内心はいずれ政界に進出をしたいという夢があったような気がする。男のロマンは簡単に捨てれるものじゃない。ふと祖父が生きていたらこの話をどう思っているか聞きたかった。

商店街を守りたい
経営をしていてやはり政治の力は凄いと感じることは多々経験してきた。良くも悪くもいわゆる日本にはまだまだ「ツルの一声」というものは存在する。日本の権力構造はやはり政治家主導で行われている。僕らのような一般人では到底抵抗できない案件やルールを動かす力を持っている。だからそれをうまく利用すればとてつもないモノを生み出すことは確かだ。少子化、福祉、教育、地方の中小企業や商店街の活性化、諸外国との関係、など色々な政策に興味があるが中でも商店街の活性化を考えてしまう。国や自治体が補助金を出す、出店基準の規制緩和、大型店との融合策、課される租税の税率見直しや特例策、などを考える。

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福岡も博多を離れれば地方の商店街はシャッタータウンの場所が多い。後継者がいない、開店していても売れない、若者は都心に出かける。若者に魅力がある商店街作りを考える必要がある。
そう考えている内に会社に着いてしまった。妄想議員はこれで終わってしまったが僕は日本の商店街をもう一度元気にしたいという気持ちは強い。だがそれはおたふくわたで実績を残してからだ。そうだなああと30年先ぐらいだろうなあ。その時は東京の事務所にいる若くて真面目で僕の長所短所を良く知る優秀な3人に秘書をしてもらおう(笑)
次回は「田舎マニア」について書きます。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2008年4月に執筆されたものです

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