九代目言聞録
2.「催事が教えてくれた大事な事」~その1~
物産展でふとんを販売することは不安だった。
それは昨年の冬、東武宇都宮百貨店のバイヤーである酒見氏の「お時間があればお会いしたいのですが」という丁寧な口調で当社に電話を頂いたのが始まりだった。有名百貨店の商談は嬉しいものだが、同時に、どういう形での販売になるのかもに気になった。
当日、酒見氏が岩田屋でのおたふくわたの販売が好調なことを関係者から聞いて当社に興味を持ってくださったといういきさつを聞いた。そして酒見氏から出た企画は意外なものだった。「九州物産展という催事があるのですが、そこに出展してはいかがですか」物産展・・・東武百貨店では北海道と並ぶ人気の催事で、今回で26回目の開催になるという。
大変ありがたい話だったが僕は相当悩んだ。今までイベント毎にふとんの売れ行きが好調だったのは、それらは「眠り」という空間で行われたことが成功の要因だったからだ。例えば岩田屋での2度のイベントはいずれも「寝具売場」での開催。つまり来場してくださったお客はほとんどが「眠り」に興味を持って足を運んでくれた人たちだ。そこには綿の懐かしさ、根強い人気、おたふくわたブランドへの愛着、健康への関心・・・これらの要素もあったかもしれないが、それはあくまで「眠り」という土台があったからこそ、成功したのだ。
だが今回は違う。「物産展」という別世界だ。「眠り」の目的ではないお客が主体になる。僕らは今までいた空間から飛び出し荷物一つもって全くの異国の地で商売をすることになるのだ。物産展のメインは食料、惣菜が多い、それにふとんよりも代表的な伝統品、土産が沢山ある。ふとんはここで浮きはしないか・・・せっかく好調な売れ行きを示しているのにこの催事で大失敗になったら社員の士気が下がらないか。そして僕の「自信」も揺らがないか。そう考えた。
酒見氏の「いかにお客を感動させるかが大事なんですよ」この一言が決め手だった。
それと、おたふくわたは博多創業ではあるが「九州物産」と呼んでいいのかも悩んだ。活動の中心は東京だし中綿も外国の最高級である。仕立ても神奈川の野原さんだし、製品自体には福岡とは少し距離がないのか悩んだ。僕はこれらの不安を酒見氏に正直にぶつけた。でも心の中ではやはりこのイベントに挑みたいという本音もあった。だから僕は最後に「バイヤー、おたふくわたは博多の魂が入っているんです」と声を大にして言った。
目をつぶって考え込む酒見氏を見てもしかすると「今回はやめておきましょう」と回答してくるかもしれないと予感した。
しばらくすると酒見氏は目を開けて「原田さんとお会いして分かりました。 原田さんが感じる情熱、魂を見て、おたふくわたは物産展に出していいものだと確信しました。売れるとか売れないは今回は大事じゃないんです。物産展はどれだけお客様に感動してもらえるかが大事です」酒見氏のセリフには涙が出そうになった。こんなドラマのような台詞を言われたら、やってみようという気になる。と同時に酒見氏はやはり商売のプロであると感心した。
商売をしていると良く「百貨店は条件もきつくて、売れないとすぐ撤去させられる。冷たい人間の集団だ」と聞くが僕が出会った数多く百貨店の人にはあまりこういう人はいない。いやむしろ、そういう温かい人間がいま百貨店の主役になっているのかもしれない。
さあいよいよ催事だ。どんな結果が出るか何だか楽しみになってきた。
次回は東武百貨店での催事は僕にとって最高の学校だった!~その2~をお送りします!
※このコラムは2006年4月に執筆されたものです