九代目言聞録

3.「催事が教えてくれた大事な事」 東武百貨店での催事は僕にとって最高の教室となった~その2~

緊張がピークに・・・弱いぞ自分!
いよいよ東武宇都宮百貨店で「大九州物産店」の催事を迎えた。開店前に朝礼があり、役員の挨拶からはじまった。低い声だが気合の入った口調である。トップが気合入っているとこちらも俄然やる気が出てくる。
その後担当マネージャーが催事中の注意事項や全体の売上目標額を言っている。
そして最後に「がんばっていきましょう!」と我々にエールを送った。だが目標額を聞いて僕はずっと緊張しまくっていた。「あ~うちだけ全然売れないんじゃないの!?」
大声で言いたくなった。ともかくスタートである。
いつもは根拠がなくても「自信」だけはあってひたすら前へ進んでいるのに今回は、めずらしく「不安」が体中に動き回っている。開店直前に周りの人たちに一通り挨拶をして、気を紛らわせようと努力したが吐き気が止まらない。弱いよ自分!
周りの店は年中、全国各地で物産展を行っているようで、すでに顔なじみの人たちが親しげに話している。別に僕が孤立しているわけではないが、なぜか高校時代にニュージーランドへ留学していた頃を思い出した。初日の教室に入った瞬間を思い出した。周りは知らない人ばかりだからそういう気持ちにもなって当然だ。ここでは新参者である。
いよいよ開店だ。どっと客が入ってきた。我がおたふくわたの看板に一瞬、目が止まる人が多かった。これはいいぞ!ここのお客は毎年催事に来る常連である。その人たちから見ればおたふくわたは初デビューでありインパクトはあった。だが・・・そのまま通過する人が多い。
なぜなら来場者のほとんどはすでに購入するものが決まっていて、一直線に目的の店へ向かう。「あんた元気だった?」「今年もやってたのね」そういった会話があちこち聞こえた。購入した後に満足感を得たお客たちはあとはウロウロと店をながめながら帰っていく。そういったお客を我々の前に立ち止らせないといけない。

同時に聞けた「あんた、今さらなんで綿なの?」と「そうよね今こそ綿よ」「懐かしいわねえ。おたふくわた・・」
そういう一言を言ってくださるだけで僕の中にあった不安がどんどん消えていく。「綿ふとん!へえ懐かしい」「あ~今こそ綿ふとんよねえ」
初日の後半にはそういう声が増えてきた。また親子連れでは母親と娘の会話が聞こえてきた。「あんた綿のふとんなんて知らないだろ。日に干していい匂いするんだよ」「へえ~」
一方厳しい意見も出てきた。「今さらなんで綿のふとんなの?」「高いわねえ、もっと安くしないと売れないわよ」「羽毛で寝るともうやめられないわよね」「手入れが面倒でしょう。」「打ち直しするふとん屋さんがまわりにないからも面倒でねえ」
「今さら」対「今こそ」この対極の声が聞けた!僕は心の中でなぜか嬉しさがこみ上げてきた。こういうお客の本音が聞こえるのは催事の良さだと思ったからだ。これは今後の商品開発に大いに役に立つ、無料で手に入れられるマーケティングリサーチである。
印象に残ったのは「どうですか綿のふとんは?」と僕が聞くと「みんなねこのあたりじゃ、ふとんが余って押入れにパンパンに入っているのよ。昔は泊まっていく親戚・友人が多かったけど最近は皆帰るでしょ。あのふとんの事考えると欲しいと思っても買う気が失せるのよ」 この会話が先日当社で行うことにしたおたふくわたGREEN&CLEAN 立ち上げにつながったのだ。

なぜ急に売れ出したかお客から聞いて驚いた。
初日は売上ゼロだった。今まで催事をしていてこんな事はなかった。おたふくわた復活してはじめて味わった体験だ。いや今まではうまくいきすぎたのだろう。
さらに、少し離れた距離でこちらも新参の博多人形の店が初日だけで500万円売れたという話を聞いて僕はある意味ふっきれた。
「明日から自然体でいこう」2日目もゼロだった。しかし暇な姿を見せるわけにはいかない。僕らはひたすらお客様に会話をしていこうと積極的に動いた。
催事3日目ぐらいから、なんと、ふとんが売れるようになってきた。なぜ急に売れてきたのか・・・客とは恐ろしいもので初日、2日目を遠くからお客は我々を見ているのだ。「初日からおたくの会社はよく動いていたせいかお客も多く立ち止まっていたでしょ。だから結構気になってね。遠くから見たらすてきなふとんだからね。旦那と相談して買うことにしたのよ」これに似た台詞は何度か聞いた。
初日、2日目と我々は無視されていたのではない。様子を見ていたのだ。おかげで3日目から最終日まで連日売れて結局20枚近く販売出来た。予定よりは少ない数だったかもしれないが催事初出場にしては大成功である。あきらめず閉店まで最後まで頑張った社員を褒めた。
何度も様子を見に来てくれた酒見バイヤーは「ふとんは人形のように手軽ではないし食べ物のように消化できるものではないですよね。初日から3日目はひたすら種まきをしていれば後半は必ず芽が出ます。良かったですね。今後の反省材料も多いと思いますが良くやってくれましたよ」芽が出る・・・心に染みた台詞だった。
酒見バイヤーは本音ではもう少し売れると計算していたはずだ。その期待に応えることは出来なかったがそれでも20枚近く売れたことは安心してくれたと思う。そして「花が咲く」ではなく「芽が出る」という言い方をしたバイヤーはきっと来年以降、当社の努力次第で「花になる」と信じてこのような含蓄ある言い方をしたのだろう。
今回は花になるような結果ではなかった。だがそれ以上に「お客の声」という教科書を手に入れたことはわが社にとても大きい成果だった。
酒見氏の協力に心から感謝し今後の商品開発に役に立たせようと思った。
次回は「おたふくわたはせんべいふとん」について書きます。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2006年4月に執筆されたものです

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