九代目のひとりごと
8.久しぶりに味わったあるタクシードライバーのサービス魂
「えっ?いいんですか?」
久しぶりに味わったあるタクシードライバーのサービス魂
タクシーをよく利用する人と会話していると必ず共通の不満がある。それはプロであるドライバーにも関わらず「まだ良く分からないので道を教えてください」というあの台詞だ。タクシーの規制緩和が実行されてから各タクシー会社は運賃の差別化だけでなく営業車を増やしドライバーを大幅に採用し競争力を高めてきた。都会ではその影響であちこちに空車のタクシーが走り、深夜になると客待ちのタクシーが増えてしまい渋滞の原因になっている。タクシーといえば目的地まで運んでもらいドライバーに距離の分お金を払う。電車などに比べてドアtoドアで運んでくれるので運賃は高い。また目的地まではぐっすり寝られるしタバコを吸いたい人はいくらでも吸える。そういう快適な空間というサービスまでついているのが本来の姿と思う。
しかしドライバーを急に増やしたので研修はしているかもしれないが地理を把握していない人が多い。こちらはずっと体を前に起こし運転手さんに目的地まで道を案内しなければならない。「こっちにお金を払ってください(苦笑)!」といいたくなる時もごくごくたまにある。最近はナビをつけているタクシーが多いが、そのナビにも慣れていないドライバーも多く、しかも私などはナビ通りに行かずくねくねした近道などを教えるので覚えたい運転手さんには悪い気がするが・・。
手を上げて拾った瞬間「あちゃー!」と思うのは研修中のタクシーを拾った時だ。急いでいる時に限ってこういうのに当たる。助手席に先輩ドライバーが腕章をつけ新人ドライバー(といっても若くはない)が緊張しながら運んでくれるのだが、会話が全くないし前の席では厳しい目で座っている教官ドライバーがいるので男3人のもう何ともいえない嫌な雰囲気になる。
でもまあ無事に運んでくれたので支払い時には「がんばってください」と言う事にしている。
ところがそんな時、とある勉強会があり時間がぎりぎりなのでタクシーを拾った。 私は目的地を伝えるとドライバーは愛想良く返事して車を走らせた。運転もうまいし世間話も色々してあっという間にその会場に着くなと安心した瞬間・・会場のかなり手前から会場に入る車と一般の車が合流の渋滞が置きていた。ドライバーに「うわあ・・凄い渋滞していますね。ここで降りましょうかね・・。」というと「いや混んでいますけどここから歩くとせっかく乗ってもらったのに悪いですから。このペースなら歩くよりは車で会場に着くほうが早いと思います」と返してきた。しかし私から見ればこの渋滞は全く車が動いていないので少しあせりはじめていた。
この人は何の根拠で「動く」と判断したのだろうか・・・。
すると数分してから急に動きだした。1台の車の原因でつまっていたかのようにすいすい動き出した。私はこの瞬間、ドライバーの「勘」に恐れいってしまった。
しかもこの後更なるサービス魂を見せつけられた。支払い時にメーターよりも数百円安い値段を言ってきた。私は「えっ?何でですか?」というと「いや間に合いましたけど渋滞していて引き止めたのは私ですからあそこからここまでのメータは引かせてもらいます」と言ってきたのだ。数十円ではないので私はとまどった・・しかしドライバーは間髪入れず「お客さんいいんです。私の言った額で払ってください」と言うので私は「ありがとうございます」を何回も言って車を降りた。
私は大げさではなくそのタクシーが会場を去るまで見届けた。「ああいう営業マンがまだタクシーにもいたんだな」とその時私は感激してしまった。しかしあの人は損した分、自分の財布から負担するのだろうと思うと気がもやもやしていた。
私はタクシーに乗る機会が多くあるのでサービスが良くて運転がうまいタクシーに乗ったときは数十円程度のおつりの時は「取っておいてください」と言って渡している。それは気前がいいというのではなくあのドライバーに対してのお返しと思っている。
私はあのタクシードライバーから、ある客に心を込めたサービスをすれば今度は違うお客から嬉しい言葉や注文を頂いたりするのが「真の商売」だということを学んだ。
※このコラムは2004年2月に執筆されたものです