おたふくわた復活プロジェクト

14.個人の体型に合ったふとんを作る・・・・野原久義氏

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「皆さんそれぞれ体型が違うし寝ている時の環境も違いますよね。それぞれの事情に合わせたふとん作りが出来るのが専門店の強みだと思うんです」と話すのは神奈川県大和市で寝具店を営む野原久義氏。野原氏はまさに「一生懸命」という言葉が似合う方です。 野原氏は一昨年の「第19回技能グランプリ」の寝具職種で初参加ながら総合第2位という快挙を成し遂げた方。ちなみに「技能グランプリ」とは熟練の技能者が技能の日本一を競い合うもので、寝具の他に機械組立、園芸、服製作、染色、料理、建具、ガラスなど様々な競技があり、まさに日本最大の技能競技大会です。大会の優勝者には、内閣総理大臣賞が贈られます。寝具技能者にとってこのレベルの高いグランプリで優勝することは超難関でありまた最高の名誉といっても過言ではありません。初参加でこの快挙を成し遂げたことが評価され野原氏は石原慎太郎東京都知事から表彰状を授与されました。そして昨年3月に行われた「第20回技能グランプリ」では見事総合優勝をされました。

野原氏は一昨年に「円座ぶとん」という種目で苦戦を強いられたため、その後1年間円座作りのために独自の縫い方を考え出すなど「一生懸命」研究した努力が報われました。その研究熱心さは寝具についても例えば敷きふとんの中心部は体重がかかりやすい部分なのでどんな職人も通常真ん中に少し綿を多く入れるのですが、野原氏は「肩口の部分にも少し綿を多めに入れます。人が寝ていて一番汗をかき湿気の多くなるのが背中から肩にかけての部分なのです。また背中は寝返りなどで力が加わるので綿を少し多めに入れることにしています。」と独自のふとん作りをしています。

今回私はふとんのたたみ方も教えていただきました。 「敷きふとんを広げてみると分かりますが四辺に縫い目がない部分が一箇所あります。そこが枕を置く部分になります、まず寝ている表面をひっくり返して(ふとんの表面にある綴じ糸の結び目が上です)枕と逆の部分から3分の1程度に折りたたみ、回転させるようにもう一度たたみます。そしてひっくり返して起します。そうすると『の』という字みたいになりますがこれだと上半身にかかっていた部分が緩やかな曲線にたためるのでシワになりにくく湿気が中にこもらずに済みます」と教えてくれました。(話がそれますが座布団も縫い目が無いほうが前で、あるほうを後ろにして敷くといいます、そして縫い目を正面にすると縁の切れ目といって縁起が悪いという意味と、親しい仲に対しては都合が悪いという意味があるそうです)

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ラベル空白の部分に購入日付を入れることにより 打ち直しの
目安が分かります。

綿というのは年数が経つとどうしてもカサが減るのですがお客様の要望によっては綴じ糸を多めに使い綿を抑え数年後にその糸を外すと抑えていた綿が膨らむような工夫もされています。こうした工夫を日ごろ考えていらっしゃる野原氏には感服してしまいます。 お客様に対してのサービスも徹底しています。(最近は他店でも採用していますが)野原氏はなんと20年も前から「敷いて3年 着て5年」と書いたラベルの下に次回の打ち直しの目安の日付を記入しておくなど常に「お客様本位」の職人さんです。不況の影響は寝具業界そして専門店にも当然ありますが、このように日々努力されている寝具店を見て私は寝具業界にもまだまだ希望が持てる、と確信しました。

木綿の話や寝具全般についての質問を沢山しましたが野原氏は嫌な顔一つせず丁寧に答えてくださいました。 「木綿を昔の作りでやれば当然重くなるが例えば高齢の方には、下に敷きパットのようなものを使っていただき、その上に綿を少なめに入れた軽い木綿ふとんを使っていただくようにアドバイスをさせていただいている。」とお店の真ん中に置いてあるベッドを使って説明してくれました。最後に「私は羽毛や羊毛に行ってしまった人をもう一度呼び戻したいんです。そのためであれば労力は惜しみません」とおっしゃいました。 帰り道「この人にふとんを作ってもらいたい。」と私は素直に思いました。 実は野原氏にはあるお願いをし、協力してもらうことになりました。このお話はまたの機会に書きたいと思います。 次回は亡き父と対談したことのある武野教授との出会いについて書きます。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2002年9月に執筆されたものです

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