九代目のひとりごと
15.神様、お願いだから「綿ブーム」なんて起こさせないで・・・
最近、有名百貨店のバイヤーの方々と会う機会が多い。嬉しいことに「おたふくわた」が徐々に広まっていることでバイヤーが興味を示し、また多くの方がおたふくわたを信頼して色々な百貨店を紹介してくれるからだ。復活させてから1年が経つが自分が予想していた以上に反響が広がっていることは協力してくれる周囲に深く感謝しないといけない。
バイヤーの方々は異口同音に綿が見直されてきている事を話す。しかし先日あるバイヤーと話していたら「今、秘かな綿ブームでしょ?」みたいな事を言われた。内心「えっ?」と思った。ブームじゃないしブームになったら困る。ブームというのはいつか終わり、2度とやって来ない時もあれば、大分先にまた注目されることもある。商売をしている我々には非常に厄介なものだ。しかもこちらから仕掛けないで消費者が作り出すブームが一番怖い。戦略・戦術がないまま流行るので、あっという間に撃沈されるのだ。
綿に対する見直しをブームと解釈されると困ってしまう。仮に木綿ふとんのブームなんて来たら震えてしまう。おたふくわたは丁寧さではどこにも負けないと思っている。お客様から注文が来てから、ふとんを届けるまで3週間ぐらいかかる時もある。それでもお客様は怒らないし、むしろ涙が出るような嬉しい言葉をくださる時もある。もしブームが来てしまえば、「丁寧に」が出来なくなってくるのだ。そしてブームが去れば体力がないおたふくわたは2度と上がってこられなくなる。
私は当初、百貨店や通販との取引に抵抗があった。出来る限り受注生産に近い形で、高品質でリーズナブルな商品を作り出したかったからだ。しかしここに来て、綿ふとんをさらに「極めたい」という思いから少しずつ門戸を広げようという気持ちが出てきた。
消費者の中には綿ふとんが好きというセグメントの中に更に「こだわり派」が存在していてその数が案外多い。綿も生地も選べて、ふとんのデザインで座布団やちゃんちゃんこまでも作りたいという贅沢な消費者が予想以上に多いことにこの1年気がついた。例えば綿の種類…世界にはいくつもの綿があるが「ふとん」に適しているものなどは限られてくる。いまおたふくわたが使用しているふとんの生地は高級である。しかし消費者は「もっと上があるのでは」と思っている。だから業界から見たら「無駄」と思われるだろうが、おたふくわたには「こだわりのプレミア木綿ふとん」があってもいいのではないかと考えた。従来通りの丁寧さでかつ超こだわりの綿ふとん。そんなものがあってもいいと思った。
おたふくわたは過去の寝具撤退の辛さを知っているので百貨店との商売も慎重にしていかないといけないのは百も承知だ。しかし前へ少し進むにはこういう力が時には必要だ。おたふくわたの「木綿ふとんを極めて」世間に「PR」する。百貨店との商談がうまくいけば一人でも多くのこだわり派にPRできるし、多くの意見を聞いて更にこだわれる。
だが、おたふくわたの「ポリシー」は失ってはいけない。受注生産に近いこのスタイルは崩すわけにはいかない。だからその条件が合わなければ百貨店とも取引しない。そういう意味ではもしこのビジネスが進めば消費者には「最高級の綿ふとん」を提供できるはずだ。綿好きにはたまらないものを考えている。 だからこそ最近の綿への「見直し」を「ブーム」と思われたくないのだ。確かに数年前なら百貨店のバイヤーも「綿ふとん?いらない、いらない!うちには良い羽毛があるから」と一蹴していたのだろう。それが今百貨店も見る目が変化していきているのは私も感じる。しかしマンネリ打破の道具として木綿が使われていくのは悲しいし、お断りだ。
今私が不安なのは「オーガニックコットン」がやたらと謳われて流行っていて、そのオーガニックコットンの事実をほとんどの人が知らないことだ。「なんとなく体に良さそう」というので売れているのだ。人間の体には普通の木綿でも全く害はないしむしろ農薬などを使った木綿のほうが頑丈である。私達のもとに来るころは農薬も全て落とされている。(これは実験でも出ている)オーガニックは「体」に優しいのではなく「環境」に優しいのだ。だから環境の良さで買っているのならいいが…。そのことをどのくらいの消費者が知っているか。これがブームで終わってしまったら純綿には影響が出ないかが心配である。
とにかく寝具には「ブーム」は邪道だと思っている。
今、いくつかの百貨店と商談が進んでいる。慎重にこの商談を進めている。もし実現したらおたふくわたは前へ進む大事な1年になるのかもしれない。来年おたふくわたと「XX百貨店」が取引開始となればその百貨店はおたふくわたを理解してくれたところだと思っていい。
最後に余談だが、昨今流行の「セレブ」ブーム・・一体何なのだろうか?・・未だに私には意味が分からない。本当のセレブなんて世界から見れば日本には数十人しかいないような気もするが・・。
※このコラムは2004年9月に執筆されたものです