九代目のひとりごと

20.予想以上の売れ行きに誰もが驚いた・・・見えてきた「木綿ふとん復活」。

先日、寝具業界の新聞の一面に「羽毛ふとんの普及率が遂に102%へ」という記事が掲載されていた。すでに数年前から90%台になり、毎回紙面に出ては羽毛ふとんに代わる商品の開発が急務だと指摘されていた。だが100%を超えた今でも私たちは羽毛ふとんの地位を揺るがすようなヒット商品を出せずにいる。 確かに羽毛ふとんより軽い重量で、手ごろなものから高級品まで品揃えが豊富な商品はそう出てこないだろう。もはや最初で最後のヒット商品だったのではないだろうか。羽毛ふとんが世の中に出てからまだ30年ぐらいしか経っていないのに数字上は国民全員が羽毛ふとんを掛けて寝ているのだ。驚異的な事であり同時に業界にとっては致命的である。新開発をして多くの商品を発表し、時には新聞やTVにも登場し話題になるものもあるが、未だ定番になるほどの大人気商品は見つからない。

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だが私はひとつ気がついたことがある。ヒットではないが再び地位をじわじわと上げてきたふとんがある・・・それが木綿ふとんである。当社が木綿ふとんを復活させて1年半になるが今でも毎月定期的にふとんは売れるし、3月末から都内でも屈指の老舗百貨店で弊社の綿と職人で作ったオリジナルの木綿ふとんが予想以上に売れている。私だけではなく社内でも驚きの声が上がっている。ましてや百貨店のバイヤー自身も自ら掲げたノルマをわずか数日で達成したことに奇跡のような表情を私に見せた。羽毛ふとんを捨てて木綿に向かう人がもしかしたら少し増えてきたと考えるのは暴論だろうか。敷ふとんは根強い人気があり木綿ふとんを選ぶ人が多いが、掛ふとんを木綿にする人はなぜ購入するのだろうか・・数字では出しにくい「確実さ」がここに出ている。

当社のふとんを購入してくださるお客様の中にも、はじめて木綿ふとんを使う人や羽毛ふとんに馴染まなくて木綿ふとんに代える人が決して少なくない。羽毛ふとんには長所が沢山ある。まずは軽さである。これはどの繊維も敵わない。そして次にいわれているのが「保温性」である。確かに寒い外で卵を守る親鳥の毛は繊維が長く量も豊富だから絶品の温かさがあるとイメージできる。だがデータによって保温性は木綿のほうが時間が長けているという資料もあるし、温かすぎて体に負担がかかると忠告する資料も出てきた。また日に干せない、品物によっては匂いが気になる。という欠点も30年の間でみえはじめてきた。そして程よい重さが安心感を与える・・こういう声も多い。つまり木綿ふとんも羽毛ふとんも長所と欠点はそれぞれ同じ数ぐらいになるのを消費者が分かってきたのだ。

だが木綿ふとんがどの繊維よりも勝っているのは「手作りで温かみ」があるという点である。(手作りといえばシルク、つまり真綿ふとんも時間をかけて1枚1枚丁寧にのばしながら作る)太陽の恵みで育った木綿のふとんは日に干すと綿はカサが出て、なんともいえない香ばしい匂いがする。なんとなく「日本の故郷」というようなイメージを持っているのではないだろうか。

また日に干すのが「面倒」から「楽しみ」、「清潔な手入れ」へと変わってきた。そして長く使っても打ち直しが出来るから環境に優しいと考えてくれるようになった。自分が育ってきた田舎の駅を降りた瞬間、走馬灯のように過去の自分が現れて気持ちが新鮮になるような感覚がもしかしたら木綿ふとんにはあるのかもしれない。だが郷愁だけではここまで売れていないはずである。

私は木綿ふとんの復活が近いような気がしてならない。だが一歩間違えると「ブーム」になってしまう。ブームは終わりが来るのでこれは避けなければならない。それは私たち商売人も職人も十分理解していることだと思う。 いま私のところにも取材が増えてきている。これはこれで有り難い話だが単なる話題作りの材料にならないようにもきちんと真意を伝えるべきである。 「木綿ふとんは日本人にとって最高のふとんである。それは歴史が証明している」 

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2005年3月に執筆されたものです

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