九代目言聞録
29.催事感動物語~催事の主役は僕らやバイヤーではなくお客様と販売員だ!~
日本橋交差点で歩きながら泣いた
いやあ嬉しい。今年はおたふくわたが復活して過去最高の催事数である。すでに8店舗で開催させて頂いた。新着情報にもご案内しているが年内あと3つ催事が予定されている。以前ここのコラムでhttps://otafukuwata.com/wp/?p=410書いたが実はここに書いた有名百貨店とは「髙島屋」の事である。この時は商談が実現出来るとは思っていなかったが昨年秋、いつものようにNバイヤーに会いに行ったとき突然、僕の顔を見て「一回ぐらいやってみるか。おたふくわたの催事を。数字は大して期待していないから(苦笑)とにかくやってみなよ」と言ってきたのだ。心底から感情があふれんばかりに嬉しかった・・・。バイヤーに帰り際「あなたの情熱に負けたよ。」と一言言われた時、僕は足が震えていたのを覚えている。
コラムでは明るく前向きに書いていたけど、2年間、先の見えない商談を続けていた僕は取引が実現したことで継続することの大切さを痛感した。あきらめずに続けること。
昨年、横浜髙島屋の催事が決まったとき僕は日本橋の交差点で人目憚らず泣きながら家内に電話をした。嬉しさで義父にも義兄にも母にも電話をした。いやあいい歳して感情はガキのままである。
催事1回目の店舗は昨年11月の横浜髙島屋である。開催は1週間行われたが突然のおたふくわたの登場に売場もお客様も驚いた表情だった。開催して数日間はどうしようもないぐらい売れなかった。だが最終日が近づくと不思議と売れ出した。お客様は初日から様子を見ているのだ。そして考えた末にもう一度足を運んで買ってくださるのだ。有難いことである。
昨年、横浜髙島屋で予想以上に販売できたことで僕は多少自信を持てた。木綿ふとんは根強い人気があることを知ったのだ。今までも催事はあったが横浜髙島屋は九州と違いおたふくわたの知名度が高くない。それでも結果的に健闘した。だからこのような厳しい条件の中で1週間立って僕は色々なことを学んだ。僕も社員もその経験のおかげで、他の百貨店やショップの担当者に会うとき前向きに催事について話せるようになった。だから今年は過去最多の数になったのだろう。横浜髙島屋の催事はおたふくわたにとって大きな転換期だった。それは営業で肝要なことは「現場で売ること」だということ。
通販でもインターネットでもふとんを購入することは出来るがそれは僕達が売場に立って販売することが前提に成り立つ。お客様の顔を直接見て売ることが1番大事である。この感覚を学ばないと机に向かってどんな企画をしてもふとんは1枚も売れない。今年は催事を沢山開催させていただいたことで不思議と通販の商談も伸びているのだ。
催事で驚かれること
実際やってみて分かったが催事は本当に奥が深い。毎回立っている度に疲労困憊になり「もう2度と催事はやらない」と思い、催事が終わって1週間もすればまた社員と催事開催の企画であちこちに売り込みにいっているのだ(笑)実際は好きで仕方がないのだろう。
催事はお客様から直接声を聞ける。綿ふとんが好きな人はもちろん、ふとんに全く興味を持っていない人が通りがかりにさり気なく言う一言も僕らには貴重である。換言すれば「無料で体験できるマーケティングリサーチ」だと思う。
野原さんが作り、僕(左端)がお客様と話す光景
手を抜かず懸命に作る、
だからまた声がかかるのだ。
当社の誰かが催事開催中ほぼ開店から閉店近くまで1名売場で立っている。
「木綿ふとん、欲しかったのよ!ああ嬉しい」といってご購入くださるのかと思うとすっと去っていくお客様、しつこそうな販売員(僕のこと)に引っかかったという怪訝な顔をしながら帰り際に突然「1枚ください」というお客様、小走りに来て数秒以内に購入するお客様、寝具マイスターの野原氏の実演に感激して購入くださるお客様、数日後にキャンセルをするお客様などなど・・・1週間で様々なお客と出会える。営業に「パターン」はない。本当に意外なところでNGになったり売れたりする。この体験は何百回やっても読みきれないものだと思う。1億人も人口がいれば1億パターンあると考えていい。だから僕は来年も声がかかれば催事をどんどんしたいと思う。
ところで最近売場の販売員の方に教えてもらったのだが、催事で1週間丸々メーカーの人間が出るのはめずらしいと聞いた。大体寝具売場の催事は出るメーカーが決まっているのだが来ても1日売上の状況を聞きに来たり週末の実演会などで立会いしている程度だそうである。開店から閉店まで立っているのは僕らぐらいらしい(笑)暇人ということか。
まだ世の中捨てたもんじゃないよ!
しかしこのスタイルが売場の販売員の皆さんに受け入れてもらえるのだ。1日繁忙時間というのは大概決まっていて12時ぐらいから15時ぐらいがピークなのだが僕らは暇な時間帯でもずっと立っている。だから販売員の皆さんが「頑張ってるね」「休憩にいけば?」
「手伝いましょうか」と沢山声を掛けてくださるのだ。数日経つとお客様を誘導してくださるようになる。
最近もこういう体験があった。野原さんの実演会があったある日曜日、同じフロアで人気料理研究家のトークショーと料理実演のイベント時間が微妙に重なったのだ。あちらは15時でこちらは14時半、僕はお客様がほとんどその人気料理家に行くことを覚悟していた。TVに良く出ている人なので実演会場の前には沢山の椅子が用意されていた。売場のマネージャーもそちらの対応に追われていて話をする余裕もなかった。僕一人だったら何てことはないのだが不安になったのはわざわざ野原さんが片道3時間で来てくださり、しかも普段中々見ることが出来ないふとん作りをしてもらえるのにお客様がゼロだったら野原さんのこつこつとふとんを作る姿が悲しく思えてきてしまうからだ。いや大げさに書いているのではない。あの場所では本当にゼロもありえたのだ。でもそれでもいい、僕は前向きに考えた。野原さんには悪いことをしてしまったが今後催事をするときは同じフロアのイベントも全て知れということをその場で学んだのだ。
僕が申し訳なさそうに「誰もいませんが・・始めてください」と言うと野原さんは嫌な顔一つせず、むしろ笑顔で「原田さんの為の勉強会ということにしましょう」と言って淡々と作りはじめた。
しかし・・・野原さんが作ってから数分してから人がぽつぽつと目の前に現れ始めた。
最初はなんと僕が大学時代にお世話になった教授が家族を連れて来てくださった。
ええ、催事をする前にメールしたのだが覚えてくださっていたのだ。嬉しいなあ。ところが・・気がつけば数十人になっていた。驚いた僕は人の流れを見て驚いた。なんとエスカレーターのそばで女性の販売員が一人ひとりのお客様に声をかけて僕達の場所を誘導しているのだった。「あちらで懐かしい綿ふとんの実演をしていますよ、あちらのトークショーの前に少しでもご覧になられてはいかがですかあ、めったに見ることが出来ないですよお」と言っていた。感動屋さんの僕はまた涙腺がゆるくなりはじめていた。驚いたのは見てくださっていたお客様の半数がトークショーにいかずそのまま野原さんのふとん完成を見続けてくださっていたのだ。そしてふとんが完成すると自然と拍手が起きたのだ。そして数人の方がはんてんやふとんをご購入くださった。こんなシーンめったに見ることが出来ない、感動の実演会だった。
2人から3人、一時は30人に。最後は15人ぐらいが残ってくださっていた。
僕は実演が終わってから呼び込みをしてくださった販売員に御礼を述べた。売場担当が違うので1週間の催事で一度も話したことがない方だった。
「だってね料理は本で見たりすればいいけど(笑)。ふとんを作る貴重な姿を見せずに終わるなんてもったいないじゃない。前日もあの方(野原氏)は少ないお客様の中で一生懸命作られていたのよ。私も昨日の実演を見てこれは芸術だと思ったのよ(笑)だからお客様に声をかけたの」僕は何度も頭を下げて御礼した。
こういうことが度々起きるからやっぱり催事は止められないのだ。
催事が終わっても僕は各百貨店などに定期訪問している。ある百貨店では僕の顔がタレントの小堺一幾さんに似ているというので「あっ小堺君が来たわ」とあだ名までつけられている。あだ名はどうあれ、とにかく販売員の方々に僕達の顔を覚えてもらうことが大事だ。お客様から「綿ふとん」や「打ち直し」の問い合わせがあれば売場の皆さんは「あっ小堺君に聞いてみよう」となるからだ。
催事の主役はつまりお客様と販売員の皆さんということである。
次回は「プレーパーク自由主義」について書きます。
※このコラムは2008年9月に執筆されたものです