九代目言聞録

5.「パン屋さんと肉屋さんの徹底している姿に僕は深い感銘を受けた。息子にもこの姿を焼き付けてほしい。」

おばあちゃんを見たとき「オーラ」を感じた・・・
 僕は子供が出来てから完全に規則正しい生活に変わった。どんなに前日遅くまで起きていても毎朝6時前後に2歳半の息子に起こされてしまう。息子が起きてしまった以上2度寝なんて許されないし出来るわけない。起き上がって息子の行動に合わせるしかないのだ。それになぜか最近は妻よりも僕を先に起こして遊ぼうとするのだ。
 起きてからしばらくして2人で家のまわりを掃除する。水撒きを終え、日によってはベビーカーに乗せてジョギングを付き合わせたり、2人で散歩したりする。息子と二人の朝7時のこの時間は最高に楽しい。
そして・・・散歩の帰り道にたまに寄るパン屋さんがある。
朝7時半過ぎになると店は開くのだが、出来たてのパンは最高においしい。パン生地のふっくらさと中身のバランスが絶妙なのだ。日によってはユニークな組み合わせのパンも作っている。僕の町の近くにはファッション、飲食の人気ショップや有名百貨店が数多くあるのだが、ここのパン以上においしいパンは食べたことがない。そういう店でパンを食べると雑誌に載っているような街の有名店が「?」である。地元であの店を知らない人はかわいそうだ。

panya
見た目は普通のパン屋さんでも味は普通じゃない!

おいしいパンとおばあちゃんとの会話。お客は幸せ者だ。
 僕がこの店を好きなのは味だけじゃない。レジに立っているおばあちゃんが最高にすてきな人なのだ。おばあちゃんは最高の商売人である。はじめておばあちゃんを見たときは「オーラ」を感じた。鈍感な僕はめったに人のオーラを感じないものだがこのおばあちゃんには久しぶりに人の「輝き」を見たような気がする。
 初めはおばあちゃんに乗せられて世間話をベラベラ話しただけなのに
 「あんた朝から元気がいいねえ。こっちまで元気になるよ。朝からありがとね」とおばあちゃんは大声で僕を見送ってくれた。仕掛けてきたのはおばあちゃんなのに相手の良さを引き出して褒めちぎる。凄い人だ。僕はこの店に通うように誘導されてしまった。こんなに朝から気分を良くしてもらうのは最高だ。僕は口だけは達者だが、今回はおばあちゃんに負けたのだ。
 息子と行くようになってからはお客がいない時、こっそりおまけにパンをくれる。
そしていつもドアを開けて見送ってくれる。
 会社の帰りにパン屋さんの前を通ると遅くまでおばあちゃんは働いている。元気な74歳!日中は休んでいるときもあるだろうけど、20時すぎまでおばあちゃんは朝と同じ姿で残り少ないパンを売っている。ここのパン屋さんは家族で経営しているのだがおばあちゃんが完全に主役である。おばあちゃんと話したくてパンを買いに来ている人も多いはずだ。おいしいパンとおばあちゃんの会話とお客は幸せ者だ。この店は50年以上続いている。

おじいちゃんは肉切台を拭いていた。もう降参である。
 そしてそのパン屋さんのひとつ先の肉屋さんがあるのだが、そこでは「おじいちゃん」が主役だ。店で肉を買わなくても誰が見せの主役か分かる。店内には家族らしき数人が肉を売っているのだが入り口付近にいるそのおじいちゃんは毎朝、毎夜、店先の肉切り台やカウンターのガラスを布きんで拭いているのだ。とにかく、いつもいつも拭いているのだ。僕が休日の昼どきに歩いているときもおじいちゃんは片手に布きんを持ったまま客と世間話をしていた。凄い。いつ見ても拭いている。
 このコラムに今年3月の東武百貨店の催事について書いた事があるが、その時の内容で時間が空いたときにふとんの手入れをしていたというのは実はこのおじいちゃんの姿を真似たのだ!(参考URL http://otafukuwata.com/wp/?p=276

パン屋さんと同じく夜まで店は開いているのだが、この前も8時過ぎに車で通ったら閉店前らしく、水を使って肉切台を拭いていた。もう降参である。僕が意識して見るようになって1年以上経つが未だに布きんを持たない姿を見たことがない。近いうち僕はここの店で肉を買うことにした。いつもひいきにしていた店があるのだが次回浮気しようと思う。

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撮影した日もやはりおじいちゃんは拭いてました。すごい!

どんな大企業も2人の宣伝力には勝てない
 かつて百貨店やスーパーの建設ラッシュで商店街が冬の時代と叫ばれてから、どのくらい経っただろうか。一部を除いていまだに商店街は元気を取り戻せずにいる。僕の知るこの2つの店もこの商店街に属している。今では数店が疎らにあるぐらいだ。しかも目と鼻の先には有名百貨店がそびえたっている。
 そのような条件でも店には活気があり、固定客もいて、店を長く続けている。それはやはり店は「人」次第であるということだ。おばあちゃんの会話、おじいちゃんの拭く姿、これは
pricelessの宣伝力だ。どんな大企業も2人の宣伝力には勝てない。
 僕はこの先輩達の姿を見て学ぶ事が多い。名ばかりのビジネス本より会社の経営の役に立つ。「続けている」ことがどんなに客の心をつかんでいるのか。そしていかに大変か。本人達は毎日同じことをしているとは思っていないだろう。だから続けていられるのだろう。
 肉屋さんだって僕が行けばおじいちゃんが一人の客を新規開拓したことになるのだ。
 息子はこうした姿をいつも見ているが、理解できる年令になった時、この2人の姿を見ながら「商売」とは何かを僕は教えたい。それまで2人には働き続けてもらいたいから更なる長生きを心から祈っている。
次回は「僕にとっての昭和プロレス」について書きたいと思います。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2006年6月に執筆されたものです

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