おたふくわた復活プロジェクト

21.「羽毛ふとんは軽くて体にいいと思いますか?」 ~「武蔵屋」亀川秀男氏が教えてくれた意外な事実~(下)

前回も書きましたが東京・吉祥寺で「武蔵屋」という名前でふとん屋さんをしている亀川秀男氏はこのコラムではおなじみの名古屋の丹羽氏と同様、寝具業界に警鐘を鳴らしているふとん屋さんの一人です。私は横浜国立大学で行われた「第十八回睡眠環境シンポジウム」の後日に亀川氏に電話をしてお店に伺いたいという話をしました。亀川氏は「いいですよ、私でよければ何でも協力します。」と言ってくださいました。そしてその数日後私は吉祥寺のお店に向かいました。 お店は吉祥寺サンロード商店街の入り口から数軒のところにありました。お店も明るい雰囲気でしかも人通りが多いので大変条件が良い場所と思いました。 お店に入ると店員さんが何人かいたのですが、奥のほうから素敵な初老のご婦人が出てきました。「おたふくわたの原田さんですか。どうもお待ちしておりました。わざわざお越しいただきありがとうございました。」ととても丁寧な口調で私を迎えて頂き、私は思わず恐縮してしまいました。そして亀川氏が待つ2階へと案内されました。

「こんにちは!」亀川氏は先日のシンポジウムでの厳しい表情とは変わり笑顔で迎えてくれました。ふと机の上を見ると私が書いている「おたふくわた復活プロジェクト」がプリントアウトされていました。亀川氏は私の視線に気づき「読ませていただきましたよ。綿についてよく研究していますね。」そして奥様が入れてくださった緑茶とお菓子を食べながら亀川氏としばらくお店や綿の話、そして先日のシンポジウムについてあれこれ熱く話していました。「このあたりのデパートにはほんとんどやはり木綿ふとんは置いていないんだけど、木綿ふとんが欲しいという老若男女が結構いるようでね、デパートの店員さんが木綿が欲しいならとうちの店を教えるらしいんですよ。だからうちの店は木綿ふとんが売れていますよ。」とおっしゃいました。私は先日のシンポジウムでの発言について亀川氏にもう一度真意を聞いてみることにしました。「いまスーパーや百貨店に行くとベビー寝具が沢山売られているが特にスーパーでは何千円という驚くべき安い値段で売られています。」亀川氏の表情が変わってきました。

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亀川氏

「赤ちゃんの健康に絶対良くない繊維が100%で中綿に使われているんですよ。大人より長く寝て繊維とくっついて寝ている事を考えると恐ろしくなってきます。」そして亀川氏はある資料を見せてくれました。この資料は数年前に株式会社環境分析センターというところが某有名百貨店などと協力して作った素材別に調査した寝床内温度のデータです。この調査はそれ以降なぜか取りやめてしまったというのですが… 寝床内温度とは掛けふとんの内側の温度の事です。このデータは成人女性を何人か使って温度20度 湿度65%という条件で行ったのですが恐ろしいデータが出ていたのです。 ふとんに入ってからわずか1時間で、綿は34度~35度、合繊は35度前後の温度なのに羽毛はなんと37度というデータが出ているのです。 「一回の睡眠で20回近く寝返りをうっているからいいものの、寝返りが少ないとこの温度は人間の深部体温に近い状態ですよ。これでは体に負担を与えるし確実に快眠ができない。」と亀川氏はいいました。亀川氏自身も似たような研究をしておりその結果も同様のものでした。

そして6年前に日本テレビの「おもいっきりテレビ」で某医学部元教授がこのデータなどをもとに「このような悪条件のもとで寝ていると免疫機能が低下して死に至る」と発言し問題になった新聞記事もありました。データ自体環境温度が不平等であり保温性などのプラス面を伝えてないなどの抗議があり日テレ側は謝罪したといいます。羽毛自体も非常に温かいのですが、国内の羽毛ふとんの側地はほとんど毛が出ないように加工しているので糸が密接になっており通気性があまりないのでこのような高温になるのです。亀川氏は羽毛の良さも知っているのであえてこのような批判をしていたのです。「加工方法やアレルギー問題を避けて羽毛=軽い、体にいいというイメージで売り続け、羽毛に頼りすぎた結果、寝具業界は迷走時代に入ってしまいました。」と本音を語りました。「木綿にえこひいきしているのではなく、自然の繊維なので体に優しいという情報を羽毛や羊毛ぐらいに業界が流してほしいんです。木綿だけ仲間外れなのはおかしいです。」と話されました。 最後に亀川氏は「店もいつか閉めなきゃいけない時期はいつか来るけど死ぬまで木綿を頑張って広めたいです。」と言いながらプリントアウトした私の書いているコラムを取り出し「実はこの方に会いたいんです。色々なところで噂は聞いていました。」とおっしゃいました…この方とは丹羽氏です。私は3人で会う約束をしてお店を失礼しました。綿というたった一つの繊維でつながってきた出会い・・今年は本当に幸せな一年でした。そして皆さんの励ましも支えになりました。 来年はおたふくわたのふとんが実現するように頑張りたいと思います。一年間ありがとうございました。 次回は宮田織物とおたふくわたについて書きたいと思います。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2002年12月に執筆されたものです

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