九代目のひとりごと

21.四国八十八ヶ所巡礼で経験した優しさ。 都会生活で失ってしまった大切なものに触れた・・・。

私は家内と5月の連休を使って恒例(といっても2回目)の四国八十八ヶ所巡礼に行った。(巡礼のきっかけは以前のコラムを参照)  そういえば新婚旅行の時には2日間かけて40キロ近く歩き、最後の寺では涙が出そうになったのを覚えている。なかなか味わえない達成感だった。だが今年の 巡礼からは1歳になる息子が初参加となるので息子を中心にしたお遍路コースを考えねばならなかった。私達は八十八ヶ所を歩いて回る(歩き遍路)を続けてい きたいので家内は数日間、巡礼のガイドブックとにらめっこして息子に負担をかけないコースを考えてくれた。

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前回の続きからとなると本来ならば十二番寺の焼山寺に行くはずだ。しかしここはお遍路さんが始めて経験する超難関のコースである。山の頂上にあるお寺で片道が8時間ぐらいかかる。というわけで今回は十三番寺からスタートした。
最初のスタートは二度目でも緊張する。巡礼前まではあまり考えていなかったのに始まるや否やこれから無事に目標のお寺を廻れるか、息子はバテないか、怪我 をしないか、色々な心配をしてしまう。そしてスタートするお寺ではお参りの仕方なんかも忘れているので家内とガイドブックを見ながら思い出す作業をしたり して時間が掛かってしまった。
だが、一旦最初のお寺を出ると、緊張感も徐々に落ち着き、しっかりとした足取りで歩いているのだ。そしていつものように、道が分かれている迷いそうな場所 には可愛らしいお遍路シールが貼ってあり不安な旅人達の道先案内人として活躍してくれる。このシールを見て私達は俄然やる気が出てくるのだ。へんろ道保存 協会の方々には感謝である。

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れ違うお遍路さん同士で挨拶するのはもちろん、街行く通行人からも「頑張って!」と声をかけてもらえる。しかも今回はベビーカーの息子もいるのだ。お遍路の格好した夫婦とベビーカーのトリオはどう見ても目立ってしまう。
< ところで今回私達はついにお遍路が経験する「接待」なるものを受けた!これが本当に感動したのだ。まずは畑仕事をしている方々が休憩中らしくジュースや菓 子類を食べながら立ち話しをしていた。その方々に声をかけられ冷たいお茶やせんべいを頂いたのだ。私達の名前も、来た場所も、巡礼の理由も、何も聞かずた だ笑顔で渡してくれた。ジュースがぬるくならないように氷の詰まったビニール袋まで渡してくれた。この人達は純粋に巡礼している人を応援しているんだと 思った。

私達が急いでいるのも知っているので向こうから「頑張ってくださいな」と切り上げるタイミングを出してくれる。この優しさが更に私達の脚を勇気付けてくれた。
またしばらく歩いていると、今度はある家からご婦人が出てきて僕らに冷たいジュースを数本くださったのだ。きっと遠くから巡礼姿の私達がベビーカーを押しな がら歩く私達を見ていたのだろう。あまりにもタイミングが良かった。このご婦人もジュースを渡すと「気を付けてくださいね。頑張ってください。」とだけ 言って家に入っていった。
都会生活に慣れてしまった私には初めて経験する感覚だった。こんな風に見返りを求めない親切なんてなかなか出来るものじゃない。四国八十八ヶ所巡礼をして いる旅人達はこんな地元の優しさがなければきっと1歩1歩を楽しんで歩くことが出来ないはずだ。

車の中からも「頑張って」と声を掛けてくれる人もいた。こんな嬉しいことは、絶対に新宿や渋谷では経験できない。でも都会でもこういう光景・・・声を出して励ます勇気があればもっともっと人々の関係が向上するはずである。

おかげで1日で、5つのお寺を巡礼できた。距離にして10キロ。息子も元気にお参りできたし満足のいく巡礼だった。そして家内と新婚旅行の頃を思い出しお互いの気持ちがまた新鮮になったことも付け加えておく。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2005年5月に執筆されたものです

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