九代目言聞録
17.職人塾はどうよ?~元気ある若者が来て欲しかった~
気合を入れて大声で会社の
紹介を話している
ある親方が「寝てる奴は帰れ」と怒った。
ありがたいことに当社のホームページはデータによると月平均5万ヒットだという。つまり相当の人がおたふくわたにアクセスしていることになる。この業界で考えればかなりの数字だ。僕のコラムも色々な人に見ていただいているようで凄く嬉しいし励みになる。「毎月楽しみにしていますよ」と言ってくださる商談先もいる。しかし・・・今回は今までと違い少し辛口な内容になるので読者の皆さんぜひ許してほしい(苦笑)
以前このコラムに書いた「学校が消えたぞ! ~ふとん職人学校閉校~ ? 下書き」が昨年、日本で唯一存在していたふとん職人育成学校が昨年廃校になり僕は日本でふとんの職人を育てる場所がなくなったことに危機感を持ち、仕事を通じて知り合えた都庁の方にアドバイスをもらい今回、東京都職業能力開発協会が行う「職人塾」制度に参加することに決めた。学校法人やNPOを作る時間も資金も体力もないのでこのような条件の中、今回、実現できることになった。
この職人塾制度とは10代~20代のいわゆるフリーターやニートが対象となっており手に職を持ちたい人が東京都に申請書類を提出し、その後面接を行い、後日、わが社をはじめ多業種のいわゆる「親方」の企業説明会や個人面接を行い、採用されれば1ヶ月間に東京都に支援されながら見習い研修を行って、修了後自社採用又は他社を紹介し「見習い職人」としての道をスタートしていくというものである。
彼らがどのぐらい本気で職人の希望を持っているかは東京都と企業が行う面接、会社見学などでの姿勢である程度把握はできるが、現実問題である採用となると大企業なら話は別だが私達のような中小では、やる気があるからと誰でもすんなり採用というわけにはいかない。給与面の問題もあるし見習いが必要になるぐらい仕事が毎日舞い込んで来るわけでもない。企業の多くが未だに「人は欲しいが人件費や将来性を考えると難しい」と悩んでいるのだ。
僕ら「ふとん業」は初の参加なので東京都の人も参加が決まった昨年9月ぐらいから積極的にアドバイスをしてくださった。あれだけ丁寧に対応してくださったから俄然やる気が出たのはいうまでもない。そして6月のその日には僕らを含めて業種が15種類ぐらいの参加企業数30社程度の親方が集まった。フリーターだろがニートだろうがここに来たのは多少やる気がある若者だろうと考えていた。先述の通り東京都もある程度面接しているわけだしそこそこのメンツだと思っていた。しかし、少し遅れて入った僕らは着席して数分後に彼らの背中を見て驚いた。正しい姿勢でこまめにメモを取っている人間も多かったが僕が気になったのは、姿勢は悪いし、すでに寝ている奴もいて、やる気のなさを感じる生徒が案外多かったことだ。「何しに来たんだ!」と言いたくなった。
その状況を見てある親方は「俺は高卒で学も知もない人間だったが先輩の厳しい指導でここまで来れることが出来、会社を作れた。職人になるにはまず人間として立派にならなければいけない。なのにこうして俺らが来ているのに寝ているとは何事だ!そんな奴は帰ってバイトを探せ」みたいなことを言ってのけた。ああ素晴らしいなあ。僕は心の中で拍手をしていた。すぐに目が覚めた奴もいたがそれでも寝ている奴がまだいたのには驚いた。
多かったが・・・
新しい成果が見えてきた!
「こいつらになめられちゃいけない。しかしこういう奴らにも堂々と綿ふとんの良さ、職人の魅力を伝えなければ」と僕は心に決め、自分の番で前の壇上に立ったときマイクを片手に大声で話しはじめた。そして綿ふとんのすばらしさ、色々な企業とのコラボレーション、職人のすばらしさを伝えた。そして手に職がある人は流行のIT関係者、外資系、金融などよりも強いと説明した。それは震災時に体育館に避難しても住民を助けることが出来るのは手に職がある人間だ、流行の業界はパソコンも会社も機能できなくなればどうしようもない。体育館でネットなんかやれる場合じゃない。しかし職人はそこらにあるものをすべて材料として作り上げることができる・・と僕なりの職人道を話した。
その成果があったのか最初は希望者ゼロだったわが社にそのあと面接・会社見学希望者が4人に変わっていた。僕は社員とふとんや会社の魅力を懸命に話した。そして会社見学のときは野原さんがわざわざ来てくださり生徒の前でざぶとん実演をしてくれた。全員がざぶとんが出来上がっていく姿を見て驚いていた。1時間の実習時間だったが皆集中していた。
しかし1ヶ月の見習い希望者はゼロだった。後から聞くとふとん職人は「体力的にも大変」「すぐ稼げそうもない」などが主な理由らしい。つまり汗をかくわりには金にならないという印象を持っているそうだ。「何じゃそりゃ?」と僕はあきれた。楽な職人なんているわけ?すぐ儲けられる商売があればもっと職人が多いはずだよ。僕は見に来た生徒たちの悪口を言うわけじゃないけどあまりの情けない断り方にあきれてしまった。
結構人気のあった手ぬぐい染業者に生徒が集中してみんなそこへの見習いを希望したという。手ぬぐいは結構ブームになっているからイメージも良いしそんなにハードな印象がないのだろう。しかし手ぬぐい業者さんも昼休みに「もう不況で大変だよ」と嘆いていたのを僕は聞いていた。手ぬぐいだって大変な作業だし、人気があり希望者が多いからこそ実力がより問われて金銭的に満足するのは相当時間がかかるのを彼らはわかっているのだろうか。1枚の手ぬぐいだって大変だよ。それに1枚のふとんを作れれば手ぬぐいの1枚よりもお金は手に入る。半ばジェラシーのような考えだが僕はそれぐらい若者の元気のなさ、ガッツのなさに驚いてしまった。
しかし僕はあきらめない。せっかくの制度だから来年も参加をしていこうと思う。そしてこの職人塾に参加していることがふとん業界でも広まりつつあって最近は弊社の職人塾教室「おたふく寺子屋」を使ってふとん作りの授業をしたいという問い合わせが増えてきた。秋には2人ほどの生徒さんが来る予定だ。周囲の協力があってはじめてこの育成問題は対応できるようになってくる。僕は自分の会社に職人を増やすという利己的な考えではなくふとん職人を育てる場所がなくなったことでこの教室を作ったのだ。おたふくわたと関係のない方でも全然構わない。とにかくふとん職人に興味を持った人は声をかけてほしい。でもやる気があるかどうかは確かめますよ(笑)
次回は「ふとんも豆腐も木綿でしょう!」について書きます
※このコラムは2007年6月に執筆されたものです