九代目言聞録

10.皿と声 その1~仕事や育児での疲れは「皿」で発散するしかない!~

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踊れなきゃ廻せばいい!
僕を知る人ならご存知の方も多いだろうが、僕はれっきとした「オタクDJ」である。僕らの高校時代はいわゆる「ダンスブーム」であり、とにかくダンスがうまい奴が凄くモテていた。POPでは「リックアストリー」や「カイリーミノーグ」の人気が絶頂期で、HIPHOPでは「LL COOL J」 や「RUN DMC」,「PUBLIC ENEMY」、また「EVERY BODY DANCE NOW !」で一世を風靡した「C+C MUSIC FACTORY」 やラテンのノリが人気だった「ランバダブーム」の時である。テレビの深夜番組では人気のダンスコンテストの番組があったり、小室哲哉がTMネットワークではなく音楽プロデューサーとして活躍しはじめ「TRF」など数々の踊り良し歌良しのダンスグループが誕生したのもこのあたりからである。
当時はレコードのことを「皿」と言っていてDJは良く「俺さあ皿廻しているんだよね」と業界用語っぽく話していた。今はもう使わないんじゃないかなあ・・使ったらもう通じないか「超ダサい」部類になったりするんじゃないだろうか・・・。
ミーハーの僕はこのダンスブームに乗ろうとディスコに行っていたが、いかんせん運動神経ゼロなので踊れるわけがない。なのでただそれらしい格好(今考えるともう赤面状態のファッションセンスである)して座っていたのだ。もちろんそんな事ではモテない。でもモテたい!そんな浅はかなあこがれを持ちながら毎週決まった仲間と出かけていた。
DJのきっかけは僕はその頃、ニュージーランドに留学していたのだがそこで知り合った日本人や現地の仲間達ともディスコによく行っていた。そしてその仲間でニュージーランド人のハンサムなDJと日本人がいて僕はいつも彼らからそのDJ技を学んでいた(というか盗んでいた)。中古のミキサーを購入し毎日ホームステイ先で練習していた。選曲のセンスは徐々に色々な人から真似ていたし、レコードショップに出かけては中古、新譜を買いあさり深夜まで懸命に廻していた。

今じゃ息子にモテたい一心
向こうでは日本人のDJというだけで珍しいのでその仲間にくっつきながらディスコのDJブースで廻していた。下手でも「こんにちは!!お前ら一番か!?」とか訳の分からない日本語でごまかせば結構盛り上がっていたものだ。だから休みに日本に帰ってきてもひたすらDJの練習をしていたものだ。「踊りができなきゃ廻せばいい!」これがブームに遅れを取らないで生き残る手段だった。確かにこの頃は踊れる人間はもちろんだが「DJをしている」とか言って名刺とか作ればなんとなくカッコイイ感じがしていた。(しかし六本木と渋谷の有名ディスコで廻して白けた体験もある)
とまあ恥ずかしい過去はこのあたりで止めておくがその頃がやっぱりたまに懐かしくなったりするのでたまに当時のレコードを聞いたり廻したりする。今でもHIPHOPは若者に根強い人気があるので渋谷などにはあちこちレコードショップがある。DJも人気が定着しているようで最近のレコードショップにはレコードのサンプルがあってショップ入り口周辺には数台のターンテーブル(レコードプレーヤー)が用意されておりその場で聞けたり、スクラッチが出来たり、スピード調節が出来たり、MIXできたり、とDJにとってはありがたいサービスが提供されているので買い損がないようになっている。

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僕はごくたまに3歳の息子を連れて週末にこのレコードショップに行く。息子にしてみれば数人の大人が耳にでかいヘッドホンをしながら黒くて大きな丸いものを一生懸命下を向いていじくりまわしている姿は異様な光景だろう。だが自宅に戻り買ってきた新しい曲とかつて高校時代に聞いていたレコードを少しボリュームを大きくしてMIXする嬉しさは仕事や育児の大変さを一気に忘れさせてくれる。やっぱり一瞬あの頃に戻れるようで楽しい。

昔はダサい格好してディスコに繰り出してはモテない男なりに一生懸命遊んでいた僕だが今では息子が僕のかける曲全て新鮮らしく楽しそうに踊ってくれる。息子もだんだん聞いているうちに自分の好きな曲があるようでそれをかけてあげると「肩車して!」と言ってくる。このぐらいの年になるともはや息子にモテるように頑張っているようなもんだ。

こんな小さい頃からテクノだHIPHOPをかけているのでオペラやクラシックが好きな音大出身のカミさんからにらまれているような気もするが・・・今では息子1人にモテていることが何よりの喜びである。ちなみにこの前生まれた2人目の子供・・それは娘だがきっといつか娘にも聞かせてやるんだと家内に内緒でたくらんでいる。

来週は皿と声の「声」について書きます。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2006年11月に執筆されたものです

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